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名古屋地方裁判所 平成9年(ワ)297号 判決 1998年9月30日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

被告は、原告に対し、金四三九万九六二四円及び内金四三九万八八二四円に対する平成九年二月六日から、内金八〇〇円に対する同年三月五日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、愛知県警察官であり交番に勤務していた原告が、三交替勤務Aにおける当務日の八時間の休憩時間のうち、五時間の仮眠時間を除く三時間は、休憩の実体を有しておらず実質的には勤務時間であり、また、当務日に付されるべき一時間の休息時間が与えられていないとして、別紙1記載のとおり、平成六年五月分から平成九年一月分までについて、一当務日あたり四時間の超過勤務手当を請求した事案である。

一  争いのない事実

1 原告は、愛知県警察官で、平成二年三月二七日から愛知県中警察署地域課公園前交番(以下「公園前交番」という。)に勤務し、平成七年三月一三日から愛知県港警察署地域課東築地交番(以下「東築地交番」という。)に配置換えとなり、平成九年三月一六日まで同交番に勤務していた。

2 原告が公園前交番及び東築地交番に勤務していた際の勤務制は、三交替勤務Aであったが、三交替勤務Aの当務日の勤務時間は、午前八時四五分から翌日の午前八時四五分までで、その間、休憩時間が八時間、休息時間が一時間とされ、その勤務時間の割り振りは所属長が定めるものとされていた。

二  主な争点

1 八時間の休憩時間のうち、五時間の仮眠時間を除く三時間は休憩の実体を有しておらず、実質的に勤務時間であるといえるか否か(争点1)。

2 一時間の休息時間は休息時間としての割り振りがなされておらず、原告はその間も勤務したとして、右一時間分について時間外勤務手当の請求をすることができるか否か(争点2)。

3 原告の時間外勤務手当の請求権については、労働基準法一一五条の適用があり、本件訴訟提起の日の前日から二年間を遡った平成七年一月三〇日までに支給日の到来した、平成七年一月支給分までの時間外勤務手当請求権は時効によって消滅したといえるか否か(争点3)。

三  争点についての当事者の主張

1 争点1について

(一) 原告の主張

八時間の休憩時間のうち、五時間の仮眠時間(以下「大休憩時間」という。)を除く三時間(以下「小休憩時間」という。)は、休憩時間といっても名目のみであり、実態は制服を着用したままの姿で来客の応対、無線の傍受、電話受理等をしなければならず、また、急訴事件(一一〇番等による住民からの出向要請)のために、直ちに出向できる態勢を義務付けられているため、交番以外の喫茶店、飲食店等に出かけることも許されていないし、さらに、法令が規定する書類作成に相当の時間を要し、休憩時間に書類を作成することを余儀なくされている。

右のとおり、小休憩時間は使用者の指揮監督下にあり、警察幹部からの指示により、あるいは市民の来訪等によって稼働しなければならないから、休憩時間ではなく実労働時間であり、また、実労働していない時間も手待時間としての労働時間である。

(二) 被告の主張

(1) 労働基準法四〇条一項、労働基準法施行規則三三条一項により、警察官には休憩時間の自由利用の原則の適用がないところ、八時間の休憩時間のうち、仮眠時間を除く三時間あるいは四時間の休憩時間の実態は次の(2)に述べるとおりであるから、休憩時間の自由利用の原則の適用がない警察官としては、労働基準法所定の休憩時間としての実体が損なわれているとはいえない。

(2) 原告が勤務していた当時の公園前交番及び東築地交番の勤務例については、管内の実態を勘案して適宜見直されていたため、勤務パターンの異なる勤務例が数例ずつあったが、八時間の休憩時間については、概ね、昼食時間帯に一時間、夕食時間帯に一時間、就寝時間帯に大休憩時間を含む五時間、これ以外に一時間が割り振られていた。

そして、仮眠時間を除く三時間あるいは四時間の休憩時間に、原告に対して課せられていた制約は、<1>許可を得ずにみだりに勤務場所を離脱しないこと、<2>けん銃、無線機、制服等について適正に管理すること、<3>交番への電話、来客及び急訴事件等があり、やむを得ずこれらに勤務として対応する必要が生じた場合には勤務変更することであるが、これらは地域警察官として原告に与えられた任務の遂行、あるいは治安維持の必要性という警察職務の特殊性から課せられた必要最小限の制約であって、これらの制約があることによって休憩の実体が損なわれるわけではない。

また、被告は、原告に対して、休憩時間中にまで制服等の着用や来客への応対、無線の傍受、電話受理等を義務付けていたわけではなく、交番以外の喫茶店、飲食店等に出かけることが許されていなかったという点も、前記のとおり、警察職務の特殊性から必要最小限の制約を課していたものにすぎず、休憩の実体を損なうことになるものではない。

さらに、三交替勤務Aで交番に勤務する者の勤務実態からして、仮眠時間を除く三時間あるいは四時間の休憩時間に書類作成を余儀なくされるとは到底いえず、仮に、休憩時間にまで書類作成を行わなければならない場合は、幹部の承認を得て勤務変更を行い、別に休憩時間を取得することができるものである。

2 争点2について

(一) 原告の主張

三交替勤務Aの当務日は、休息時間一時間の定めはあるものの、勤務時間一六時間がすべて労働時間として割り振られており、実際には休息時間がとれないようになっている。これに対して、通常勤務者の場合は、勤務時間は午前八時四五分から午後五時三〇分まで、休息時間は三〇分とされ、この休息時間三〇分は一五分ずつ二回に分けて実際に割り振られている。

したがって、休息時間について三交替勤務Aの者と通常勤務者との間に不公平が生じており、このような勤務実態は公序良俗に反し違法であり、三交替勤務Aの者も通常勤務者と同様に労働ないし休息時間が保障されるべきであるにもかかわらず、それが与えられずに労働に従事しているのであるから、休息時間一時間について時間外勤務手当が支給されるべきである。

(二) 被告の主張

休息時間は、勤務時間内に割り振られているものであって正規の勤務時間の一部であり、給与の対象となっている時間であるから、休息の有無にかかわらず時間外勤務手当の対象となり得ないことは明らかである。

3 争点3について

(一) 被告の主張

時間外勤務手当の請求権については、労働基準法一一五条の適用があり、二年間これを行使しなければ時効によって消滅するから、被告は、予備的に、本件訴訟提起の日の前日から二年間を遡った平成七年一月三〇日までに支給日の到来した平成七年一月支給分までの時間外勤務手当の請求について、時効を援用する。

(二) 原告の主張

地方自治法二三六条一項、会計法三〇条の規定から、時間外勤務手当の請求権の消滅時効期間は五年間と解すべきであり、原告が本訴で請求している時間外勤務手当はいまだ時効によって消滅していない。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1 証拠によれば、次の事実が認められる。

(一) 交番勤務の地域警察官の当務日の勤務時間、休憩時間及び休息時間の割り振りは、所属長である警察署長があらかじめ幾つかの勤務例を定めておき、当務日の当日、個々の地域警察官ごとに、そのうちの一つを指定することによって行われる。

(二)(1) 原告が勤務していた当時の公園前交番及び東築地交番の勤務例については、管内の実態を考慮して適宜見直されていたため、勤務パターンの異なる勤務例が数例ずつあったが、一六時間の勤務時間については、概ね、警らに七時間、巡回連絡に二時間、在所に二時間、見張に二時間、立番に二時間、教養に一時間が割り振られていたところ、右の勤務の具体的な内容は以下のとおりである。

<1> 警ら

所管区を巡行することにより、管内状況の掌握を行うとともに、犯罪の予防検挙、交通の指導取締り、少年の補導、危険の防止、市民に対する保護、助言及び指導等に当たるものである。

<2> 巡回連絡

担当する区域を巡回して家庭、事業所等を訪問し、犯罪の予防、災害事故の防止その他住民の安全で平穏な生活を確保するために必要と認められる事項についての指導連絡、住民の困りごと、意見、要望等の聴取等に当たることにより、住民との良好な関係を保持するとともに、受持区の実態を掌握するものである。

<3> 在所

交番又は駐在所の施設内において、諸願届の受理等を行うとともに、書類の作成整理並びに装備資器材及び施設の点検整備等を行い、あわせて外部に対する警戒に当たるものである。

<4> 見張

交番の施設内の出入口付近に位置して、椅子に腰掛けて警戒するとともに、諸願届の受理等に当たるものである。

<5> 立番

原則として、交番の施設外の適当な場所に位置して、立って警戒するとともに、諸願届の受理等に当たるものである。

<6> 教養

教養とは通告教養のことであり、前日の事件の手配、当日の勤務の予定、その他の注意事項等についての連絡が幹部から行われる。

(2) また、当務日の八時間の休憩時間については、概ね、昼食時間帯に一時間、夕食時間帯に一時間、就寝時間帯に四時間あるいは五時間、これ以外に一時間あるいは二時間が割り振られていた。

(三) 愛知県下にある交番の施設の内部は、ほぼ同様であり、以下のとおりとなっている。

(1) 交番の施設の内部には、事務室、休憩室、洗面所、湯沸場等があり、休憩室は、事務室からは施錠できる扉により隔離されており、休憩室にはカラーテレビ、座卓、寝具、冷房機器等が備え付けられているほか、新聞も取られている。

(2) 交番に設置された電話は、一般の加入電話ではなく警察専用の電話であり、市民が交番に電話しようとする場合は、警察署の交換台を経由しなければつながらない仕組みになっている。また、交番に設置された電話には転送装置が設置されており、これを作動させることによって交番へかかる電話はすべて警察署地域係につながる仕組みになっており、転送装置が作動しているときは警察署地域係以外からはその電話を呼び出すことができない。また、一般の電話から交換台を経由して交番にかかってくる電話と、警察署地域係からかかってくる電話とでは、電話の鳴り方が異なっている。

(3) 交番には、休憩室にも事務室の電話と親子電話になった電話機があるが、休憩室の電話だけを切る装置が付けられている。

(4) 交番には、交番勤務員が対応できない場合に備えて、一一〇番(事件、事故の場合)または警察署の地域課(道案内、落とし物、拾い物等の場合)へ電話するように記載した案内板が備え付けられており、勤務員が休憩のために休憩室にいる場合も、来訪者はこの案内板の表示を見て警察署等へ電話することができるようになっている。

(5) 右(1)ないし(4)のとおり、交番には休憩室等の設備が整備されており、休憩時間中の電話や来訪者への第一次的な対応は、警察署等で現に勤務中の者が行う仕組みになっていた。

(四) 交番勤務員は、指定された勤務例に従って勤務を行うことが原則であるが、地域警察幹部は、治安情勢から必要があると認める場合は、地域警察官の勤務時間及び休憩時間の割り振り変更(以下「勤務変更」という。)をすることができるし、また、地域警察官も、勤務例による勤務を通じては効果的な地域警察活動を行うことができないと認める場合は、事前又は事後に地域警察幹部の承認を得て、勤務変更を行うことができるところ、休憩時間中に交番に来訪者や電話があったり、無線を傍受する必要が生じ、勤務としてこれに対応せざるを得ない場合や、書類の作成が在所勤務時間中に終わらず、休憩時間を使用する必要がある場合には、事前又は事後に直属の地域警察幹部の承認を受けて勤務変更を行い、その後の勤務時間に代わりの休憩を取得することができることになっていた。

(五) 交番に勤務する警察官は、定められた制服を着用し、制服のズボン腰部には帯革を付け、それにけん銃、警棒及び手錠を着装するとともに、警察署との交信用の署活系無線機及び本部系無線傍受のための受令機を携帯することが義務付けられているが、休憩時間中についてまで制服の着用、けん銃等の着装は義務付けられておらず、署活系無線機及び受令機についても休憩時間中の傍受までが義務付けられていたわけではなく、休憩時間中については、制服、けん銃、無線機等の適正な管理が義務付けられていたにすぎない。なお、休憩時間中に急訴事件等が発生し、勤務変更をして対応することになった場合は、その必要が生じたことを認知した時点で速やかに態勢を整えて対応することになっていたものであり、常時、制服、けん銃等の装備品を着装して直ちに出向できる態勢を保持することまで義務付けられてはいなかった。

(六) 原告の平成八年一月から同年一二月までの一当務日当たりの活動実績は、別紙2の「一当務当たりの活動実績原告欄」に記載のとおりであり、また、同期間における愛知県港警察署地域課警察官の一当務日当たりの活動実績は、別紙2の「一当務当たりの活動実績港署平均欄」に記載のとおりであって、原告の一当務日当たりの活動実績は平均以下であり、休憩時間を勤務変更しても、別途休憩時間が取得できなくなるような勤務状態ではなかった。

(七) 地域警察は、勤務員の一部が休憩中であっても、組織としては常に活動を行っていることから、交番に勤務する警察官は、緊急時における連絡及び体制確保等のために、休憩時間においても、許可を得ずにみだりに勤務場所を離脱しないことを義務付けられているが(ただし、勤務に影響を及ぼさない範囲で、警察幹部の許可を得て、連絡体制を確保しつつ交番以外に出かけることは許されている。)、休憩時間中に事件、事故等が発生した場合は、原則として勤務中の他の警察官が処理する体制となっており、休憩時間中の警察官が処理することとなるのは、緊急の場合、重要な事案発生の場合等、その時々の状況によりやむを得ない場合だけであって、このように休憩時間中の警察官が処理した場合は、前記(四)のとおり、事前又は事後に直属の地域警察幹部の承認を受けることによって、その後の勤務時間に代わりの休憩を取得することができるようになっている。

2 判断

(一) 被告が、小休憩時間につき、<1>許可を得ずみだりに勤務場所を離脱しないこと、<2>けん銃、無線機、制服等について適正に管理すること、<3>急訴事件等があり、やむを得ずこれらに勤務として対応する必要が生じた場合は勤務変更をすることとの制約を課していたことは、被告の自認するところであるが、警察の責務は極めて公共性が強く、市民生活の安全と平穏を守るために、昼夜を分かたず職務を遂行しなければならないこと、そのため労働基準法四〇条一項、労働基準法施行規則三三条一項一号も、警察官については休憩時間の自由利用の原則の適用を排除していることを考慮すると、前記1に認定した小休憩時間の実態からすれば、右小休憩時間は実質的な勤務時間または手待時間とは認められず、労働基準法所定の休憩時間としての実体を備えているものということができる。

(二) 以下、原告が小休憩時間は勤務時間または手待時間であると主張する根拠について、補足的に判断する。

(1) 原告は、小休憩時間においても、制服を着用したままの姿で来客の応対、無線の傍受、電話受理等をしなければならないと主張する。

しかし、休憩時間中にまで制服の着用、けん銃等の着装は義務付けられておらず、署活系無線機及び受令機についても、休憩時間中の傍受までが義務付けられていたわけではないことは、前記1の(五)に認定のとおりである。

また、休憩時間中の来訪者や電話については、電話の転送装置や交番内に備え付けられた案内板などによって、第一次的には勤務中の警察官が対応するようになっていることは前記1の(三)の(2)ないし(5)に認定のとおりであり、仮に、休憩時間中に交番に来訪者や電話があったり、無線を傍受する必要が生じ、勤務としてこれに対応する必要があった場合は、事前又は事後に直属の地域警察幹部の承認を受けることによって、その後の勤務時間に代わりの休憩を取得することができるようになっていたこと、そして、原告の勤務の実態は、休憩時間を勤務変更しても別途休憩時間が取得できないような余裕のないものではなかったことは、前記一の(四)、(六)に認定のとおりである。

したがって、この点についての原告の主張は理由がない。

(2) 原告は、急訴事件のために直ちに出向できる態勢を義務付けられているため、交番以外の喫茶店、飲食店等に出かけることも許されていないと主張する。

しかし、警察官には休憩時間の自由利用の原則の適用はないのであるから、喫茶店、飲食店等に出かけることが許されていないからといって、休憩時間としての実体が損なわれているとはいえない。

そして、休憩時間中に事件、事故等が発生した場合は、原則として勤務中の他の警察官が処理する体制になっているが、やむを得ず休憩中の交番勤務員に勤務変更を命じて対応させる場合は、その必要が生じたことを認知した時点で速やかに態勢を整えて対応することになっているものであり、常時、制服、けん銃等の装備品を着装して直ちに出向できる態勢を保持することまで義務付けられてはいなかったこと、また、勤務に影響を及ばさない範囲で、警察幹部の許可を得て、連絡体制を確保しつつ交番以外に出かけることが許されていたことは、前記1の(五)、(七)に認定のとおりである。

したがって、この点についての原告の主張は理由がない。

(3) 原告は、小休憩時間は使用者の指揮監督下にあるから、実際に労働していなくても手待時間としての労働時間であると主張する。

しかし、前記(三)(1)のとおり、交番は休憩が容易にとれるように設備面において十分に配慮されていること、休憩時間中に事件、事故等が発生した場合は、原則として勤務中の他の警察官が処理する体制になっていること、また、休憩時間中に警察幹部が交番勤務員に指示、命令を行う場合は、勤務変更により休憩時間を別に振り替えて行うものであることからすると、小休憩時間について前記2(一)の<1>ないし<3>の制約があるとしても、休憩時間の自由利用の原則が認められていない警察官としては、右制約はやむを得ないものというべく、労働基準法所定の休憩の実態を損なうものとは認められないから、小休憩時間をして手待時間であるということはできない(なお、前記1で認定の小休憩時間の実態に照らせば、右<1>ないし<3>の制約の存在をもって、交番勤務員が小休憩時間中も使用者の指揮監督下にあるといえないことは明らかである。)。

したがって、この点についての原告の主張は理由がない。

(4) 原告は、三交替勤務Aで交番に勤務する者も、法令が規定する書類作成に相当の時間を要し、休憩時間に書類を作成することを余儀なくされていると主張する。

しかし、《証拠略》によれば、書類作成は、在所勤務の時間のみで処理しなければならないものではなく、特別勤務あるいは見張、立番の勤務時間中においても処理できるものであること、また、右の勤務時間内に処理できない場合は、勤務変更をして処理することも許されていることが認められ、勤務体制として休憩時間に書類を作成することを余儀なくされているということはできない。

また、原告の一当務日当たりの活動実績が平均以下であることは、前記1の(六)に認定のとおりであり、原告の勤務実態としても休憩時間に書類を作成することを余儀なくされていたとは認められない。

したがって、この点についての原告の主張は理由がない。

二  争点2について

1 《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

(一) 愛知県警察職員の休息時間については、愛知県警察職員の勤務時間等及び勤務管理に関する規程六条により、別表第1に基づいて所属長が定めるものとされているところ、右別表第1の備考欄には、休息時間は勤務時間に含まれるものとし、これが与えられなかった場合においても繰り越されることはない旨が記載されている。

(二) 三交替勤務Aの当務日の休息時間については、書面化された勤務例の中には割り振られていなかったものの、実際には、交番へ出向するための身支度、勤務時間中の手休め、仮眠前後の洗顔や着替え、勤務終了前における交番での喫茶等として利用されていた。

2 判断

休息時間は、勤務時間の中に割り振られているものであって、通常の勤務時間に対する給与支払の対象となっている時間であるから、現実に休息したか否かにかかわらず時間外勤務手当の対象とはなり得ないものである。

ところで、原告は、通常勤務者には休息時間が実際に割り振られており、三交替勤務Aの者と通常勤務者との間に不公平が生じており、このような勤務実態は公序良俗に反するなどと主張する。

しかし、三交替勤務Aの者も実際には休息時間を取得していることは前記1(二)に認定のとおりであり、仮に、実際の勤務実態において、三交替勤務Aの者が休息時間を十分に取得できないことがあるとしても、休息時間は勤務時間なのであるから、他の者と比べて不公平であるとか、公序良俗に反するということはできない。

したがって、いずれにしてもこの点についての原告の主張は理由がない。

第四  結論

以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林 道春 裁判官 山本剛史 裁判官 松岡千帆)

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